日本財団 図書館


 

ンが『種の起原』(1859)で提唱した自然選択理論がある。彼はハトなどの家畜動物や栽培植物において人為選択が適応形質を進化させることから類推して、自然界でも同様のメカニズムがはたらいているはずだと考えた。これが自然選択である。彼が自説を支持する証拠として集めた材料は厖大なものだが、いずれも間接的な証拠であって、自然選択の存在を直接示すものではなかった。ダーウィンの論拠は、あくまでもアナロジーにあったのである。そして、この類推は正しく、自然選択は進化のメカニズムとしてきわめて重要なものであることがその後の研究で確認されている。
このように、アナロジーによる新しい理論モデルの構築は、成功すれば説明能力や問題提起能力が高い。しかしそれにもかかわらず批判が多いのは、アナロジーによる説明がしばしば恣意的になることが多いからだ。つまり、説明能力や予測能力の低いアナロジーがしばしばみられるのである。どうすればこのようなアナロジーを回避できるだろうか。問題は次の二つである。第一に、有効なアナロジーとは何か。第二に、どうやってそれを発見することができるか。
まず有効性の問題だが、有効なアナロジーとそうでないアナロジーの差は、関係の一致度にある。アナロジーで重要なのはシステムの要素そのものの性質ではなく、要素間の関係、あるいは要素(局所構造)と全体システム(大域構造)の関係がどれだけ類似しているか、である。
例をあげて説明する。コンピュータ・シミュレーションで鳥が群をなして飛ぶ状態をシミュレーションした例に、“BOID”と呼ばれるものがある。“BOID”は「疑似鳥BirdOID」の意味で、「本物の」鳥ではなくコンピュータの中に合成した鳥を表している。CGアーティストのクレイグ・レノルズは、たった3つのパラメータをプログラムするだけで、鳥が群をなして飛ぶ様子を「本物」そっくりに合成することに成功した(佐倉,1993,1995を参照)。それまでは、動物の群の行動をシミュレーションするには膨大なコンピュータ・プログラムを必要としたが、これによってきわめて単純なプログラミングで十分になったのである。この技術はCG界に革命をおこし、『ジュラシック・パーク』や『バットマン・リターンズ』など、多くの映画で使われている。
ここで重要なことは、コンピュータの中の鳥の一羽一羽が、どれだけ本物の鳥に似ているかということではなく、「鳥と鳥の群との関係」が「ボイドとボイドの群との関係」にどれだけ類似しているか、である。この点でBOIDはほぼ完壁なものだった。ハリウッドで高く評価され、革命を起こした理由はそこにある。それは、よい有効なアナロジーだったのである。
次の問題は、そのような有効なアナロジーをどうやって獲得するかである。実は、このための決定的な手続きは、まだ発明されていない。ここでは、アナロジー評価の基準を複数種類設けるという方法を近似法としてあげておきたい(佐倉,1997)。つまり、ひとつのアナロジーの有効性を複数の側面から検討することで、より創造的な

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION